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神戸地方裁判所 平成4年(ワ)2175号 判決

兵庫県西宮市今津出在家町四番九号

原告

大関株式会社

右代表者代表取締役

長部文治郎

右訴訟代理人弁護士

木村修治

神戸市東灘区住吉南町四丁目五番五号

被告

白鶴酒造株式会社

右代表者代表取締役

嘉納秀郎

右訴訟代理人弁護士

中嶋邦明

松田成治

右輔佐人弁理士

東尾正博

鎌田文二

鳥居和久

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  (主位的)

被告は、一八〇ミリリットル詰容器の清酒を製造・販売するにあたり、別紙目録(一)記載1のラベルを使用してはならない。

(予備的)

被告は、一八〇ミリリットル詰容器の清酒を製造・販売するにあたり、別紙目録(一)記載1のラベル中、同目録2記載の表示部分(以下『「SAKE CUP」表示』という。)を使用してはならない。

二  被告は、原告に対し、金三億一九七四万円及びこれに対する平成五年一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告の別紙目録(一)記載1のラベル及び別紙目録(四)記載のラベルの使用ないし別紙目録(一)記載2のラベルの使用が、不正競争防止法二条一項一号に当たるとして、被告に対し、別紙目録(一)記載1のラベルの使用の差止め(主位的)ないし同目録(一)記載2のラベルの使用の差止め(予備的)及び不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  原告と被告は、ともに清酒の製造販売等を目的とする会社である。

2  (原告の商品表示とその周知性)

(一) 原告は、昭和三九年一〇月ころ以降、別紙目録(二)記載のラベル(以下、その「SAKE One CUP OZEKI」の表示部分を「原告表示」という。)を使用して、一八〇ミリリットル詰容器の清酒一級、二級(但し、平成四年四月一日以降上撰、佳撰。以下「原告商品」という。)を製造・販売している。

(二) 原告表示は、遅くとも昭和五四年ころまでには、原告商品の表示として、全国的に取引者、需要者の間に広く認識されるに至っている。

3  (被告の商品表示)

被告は、遅くとも平成元年三月一日以降、別紙目録(四)記載のラベル(以下その「SAKE CUP 鶴の図柄 白鶴の文字」の表示部分を「被告旧表示」という。)を使用し、平成三年九月ころからは、別紙目録(一)記載1のラベル(以下、その「鶴の図柄 白鶴の文字 SAKE CUP」の表示部分を「被告現表示」といい、これと被告旧表示と合わせて「被告表示」という。)を使用して、一八〇ミリリットル詰容器の清酒一級(但し、平成四年四月一日以降上撰。以下「被告商品」という。)を製造・販売している。

二  争点

1  被告表示の原告表示との類似性の有無及び誤認混同のおそれの有無

2  原告の損害額

三  原告の主張

1  被告表示の原告表示との類似性

(一) およそ商品に付されるラベルは、主として、商品の出所を表示する機能を持たせるために使用されるものであるから、ラベルの商品表示としての構成を考えるときは、消費者に一番見やすいようにラベルの正面に記載された表示について考察すべきである。

(二) 原告表示の構成

(1) 原告表示は、消費者が原告商品の正面からこれを見たとき、別紙目録

(三) 記載の原告商品のとおり、次のとおりの構成となっている。

〈1〉 基調色を青色とする縦長の四角状のラベルに、白抜きの手法で英文字が表記され、

〈2〉 その白抜きの英文字は、

a 右ラベルの一番上に、ややイタリック状の極く小さな文字で「SAKE」と記載され、

b その下(aとbとの間)に、かなり大きく特徴のあるデザイン書体で「One」(nとeはOよりも小さく小文字で記載されている。)と「CUP」の二段に分けられて記載され、

c その下(ラベルの一番下)に、ややイタリック状の小さな文字で「OZEKI」と記載されている。

(2) 右の原告表示のうち、「One」と「CUP」は、その書体の近似性から「One CUP」として一つのまとまりを見せており、この部分のラベルに占める面積割合がその余の記載部分よりはるかに大きく、ラベルの中央部に表示されているところから、この「One CUP」部分が消費者に強く印象づけられるような構成になっている(それゆえ、原告商品は単に「ワンカップ」と称呼されているのである)。

(三) 被告旧表示の構成

(1) 被告旧表示は、消費者が被告商品の正面からこれを見たとき、別紙目録(三)記載の被告商品のとおり、次のとおりの構成となっている。

〈1〉 基調色を青色とする縦長の四角状のラベルに、白抜きの手法で、英文字並びに「白鶴」の文字と鶴の図柄が表記され、

〈2〉 その白抜きの英文字は、

a ラベルの一番上に、やや小さく「SAKE」と記載され、

b その下に(aとcとの間で、被告商品容器の中央から下方にかけて)、大きく、「SAKE」と同じ書体で「CUP」と記載され、

c 右「CUP」の記載の下(ラベルの一番下)に、白鶴の図柄と「白鶴」の文字が横に並べて記載されている。

(2) 右の被告表示のうち、「SAKE」と「CUP」とは、書体の近似性から「SAKE CUP」として一つのまとまりを見せてはいるが、「CUP」の文字がラベルの中央部に位置して大きく表示されていて一番目立ち、「SAKE」の文字は「CUP」の文字の三分の一程度の大きさであり、英文字とは趣きを異にした鶴の図柄と「白鶴」の漢字が横並びで小さく表示されているものであるから、「CUP」の表示が消費者に最も強く印象づけられるような構成となっている(したがって、被告表示は、被告が主張するような「ハクツルサケカップ」と呼称されるような構成のものにはなっていない)。

(四) 被告現表示の構成

被告現表示は、白鶴の図柄と「白鶴」の文字がラベルの一番上(「SAKE CUP」の上)に配置されている点で被告旧表示と異なるが、その他は記載されている文字、字体、図柄は被告旧表示と全く同一であり、消費者に与える印象も被告旧表示と同じ構成のものである。

(五) 被告表示の原告表示との類似性

被告表示と原告表示とは、次のところから、これを全体的に考察すれば類似している。

(1) 両表示とも四角形状のラベルの基調色が同系の青色である。

(2) ともに商品名を白抜きの特徴あるデザイン書体の英文字で表記する手法がとられている。

(3) 被告表示の「CUP」は、「SAKE」よりはるかに大きく表示されており、その書体において、原告表示の「CUP」に極めて酷似している。

(4) 被告表示の前記英文字の称呼は「サケカップ」であり、原告表示の「サケワンカップ」なる称呼に類似し、観念も類似している。

(六) 被告の主張に対する反論

(1) 被告は、消費者は原告表示の「One CUP OZEKI」の英文字や、被告の鶴の図柄、「白鶴」の文字を目印にして商品を購入するのが通例であるから、出所の混同はない旨主張する。

しかしながら、消費者が原告商品のラベル(原告ラベル)で一番目につきやすく、印象深い部分は、特徴あるデザイン書体でラベルの中央部に表示された「One CUP」である。他方、被告商品のラベル(被告ラベル)で同じく一番目につきやすく、印象深い部分は、その中央部に表示された「SAKE CUP」の表示部分である。これは、メーカーが当該部分に宣伝公告の機能を持たすため、商品のコンセプトやイメージを織り込んでネーミングし、消費者にそのコンセプトやイメージを強く訴えかけるために、独特のレタリングなりデザインを施すことの当然の結果である。したがって、消費者は、これらの印象深く表示された商品標示を目印に購入するものであるから、被告の主張はその前提において既に誤っている。

そして、商標の類否判断は、商品との関係・当該業界における商標使用の慣行などの具体的な取引の実状を勘案して行うものとされ、商標の周知、著名性も勘案することは許されると解されているところ、原告商品は、それまで多かった清酒の消費スタイルの集飲(集まって飲む)タイプに合わせた商品形態からの差別化特性を目指し、清酒を軽量の広口瓶のカップに入れて、そのまま冷やで、いつでも、どこでも、一人でも、手軽に飲めるようにと考案された商品であり、そのネーミングについては、デザイン会議において、「ワンカップ」、「ワンコップ」、「ワングラス」といったいくつかの提案の中から、最終的に国際感覚に優れたものとして「ワンカップ」に決定され、それにふさわしいデザインを検討して、青地に英文字のみを白抜きにレタリングした原告表示が完成したのである。そして、原告は、昭和三九年原告商品の発売以来、「ワンカップ自動販売機」の普及に力を注ぐ一方、有名俳優、歌手らを登用してテレビ広告やコマーシャルソングの普及等々の宣伝広告活動を積極的に展開した結果、昭和四五年ころから飛躍的に売上げを伸ばし、昭和五四年ころには年間売上げ一億本を達成し、平成四年までの二九年間で約二二億本を超えるまでのロングセラー商品に成長させ、原告における中核的な商品となっているのであり、このような原告表示の普及とともに、原告表示の「One CUP」は、「ひとつのカップ入りの酒」という意味合いの数量表示として、コップ入りの清酒について他社の追随を許さない圧倒的な著名性を獲得し、販売実績も他社のそれを凌駕しており、それとともに、青地に白抜きの英文字のみによる原告表示は、原告の商標として、被告が被告商品を製造販売するはるか以前において著名なものとして全国的に広く取引者、消費者の間に定着していた。

したがって、このように原告表示の著名性が確立した後に、被告が、被告表示を被告商標としてラベルの中央部に顕著に使用すれば、当然出所に混同を生ずるおそれがあり、現に混同の例が多数生じているのであり、そのことは、専門家の立場からの意見や市場調査結果によっても裏付けられる。

(2) 被告は、被告旧表示について商標登録がなされたことや、原告の「Sake CUP OZEKI(色彩限定)」について商標登録出願公告がなされたことをもって、被告表示は原告表示とは非類似である旨主張する。

しかしながら、商標法は登録商標の保護を目的とし、不正競争防止法は商品の出所混同を招来するなどの不正競争防止行為を防止することを目的としているから、表示ないし商標の類否判断において、外観・称呼・観念を対比する伝統的な手法によるとしても、自ずからその法の性格の相違に基づく相違点が存する。つまり、商標の場合は、商標登録の要件又は権利の及ぶ範囲としての類否を判断すべきものであるから、商標のみに着目して観察する厳格なものになる傾向があり、二個の商標の静的・形式的な対比において類否の判断がなされる。その判断は商標として不使用の状態でもなされなければならないから、自ずから一般的抽象的にならざるをえない。これに対し、不正競争防止法の場合は、公正な競争秩序維持の観点から、商品の出所混同等を招くものであるかどうかを判断するのであるから、表示が使用されている生の状態で、いわば二個の表示を動的・弾力的に対比してその類否を判断すべきものであり、混同の要件と全く無関係ではない。したがって、不正競争防止法上の類似の判断は、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かの観点からなされるものであって、必ずしも商標法のそれと一致しなければならないものではないのであり、商標登録例は法律上裁判所の判断を拘束するものではない。

(七) 被告の出所の混同行為

被告は、原告表示と類似する被告表示を使用して、原告と同様に一八〇ミリリットル容器詰めの清酒を製造・販売しており、右被告の行為は、原告の商品と出所の混同を生ぜしめる行為(平成五年法律第四七号による改正前の不正競争防止法〔以下「旧不正競争防止法」という。〕一条一項一号、右改正後の不正競争防止法二条一項一号)に当たる。

よって、原告は、被告に対し、主位的に、被告が現在使用中の別紙目録(一)記載1のラベルの使用の差止を求め、右混同を防止するための措としては必要にして十分な最小限度の請求にとどめるべきとの見解もあることから、予備的に右ラベル中の要部である「SAKE CUP」表示部分の使用の差止を求める。

2  原告の損害

(一) 原告は、前記被告の不正競争行為(それは、被告の故意または過失に基づくものである。)により、営業上の利益を侵害されている。

そして、不正競争防止法五条(損害額の推定等)の規定は、前記同法改正前の不正競争行為についても適用される(付則二条)。

(二) 原告表示の使用料相当額(主位的主張)

(1) 原告表示のような著名表示の使用料は、売上高の五パーセントを下らない。

(2) 被告商品の平成元年三月一日から平成四年一二月三一日までの間の総売上高は、次のとおり一〇四億二四四〇万円である。

〈1〉 被告商品の生産者販売価格は、一本当たり少なくとも一四六円である(これは、同業の原告の同種商品の販売価格であり、被告も当然同額であると推定される)。

〈2〉 販売数・売上高

a 平成元年三月一日から同年一二月三一目まで(一〇か月)

販売数 一三〇〇万本

(被告の平成元年度のカップ酒の生産出荷量は三五一八キロリットルで、これを本数にすると一九五〇万本になる。被告の同年度のカップ入り清酒は、二月末日までは「タンブラー」であり、新商品の「サケカップ」は三月一日から発売されたから、右一九五〇万本のうち被告商品はその一二分の一〇に相当する一六二五万本となる。被告は、「サケカップ」の商品名をつけた商品として、被告表示を使用した「上撰」(被告商品)と、基調色を赤にしたラベルの「佳撰」の二酒類を生産販売しているが、被告表示を使用した「上撰」の商品が主力商品であり、同業の原告の例によると、右赤ラベルの「佳撰」はカップ酒の全出荷量の一〇パーセント程度にとどまるものと見られ、したがって、被告表示を使用した被告商品は、どう控えめに見ても、同年度の「サケカップ」の生産出荷数量の八〇パーセントを占めていると見られるから、右一六二五万本の八〇パーセントに相当する一三〇〇万本である。

売上高 一八億九八〇〇万円

b 平成二年一月一日から同年一二月三一日まで

販売数 二〇〇〇万本

(被告の平成二年度の「サケカップ」の生産出荷数量は四五一〇キロリットルで、これは二五〇〇万本に換算され、その八〇パーセント相当の二〇〇〇万本は被告表示を使用した商品と見られる。)

売上高 二九億二〇〇〇万円

c 平成三年一月一日から同年一二月三一日まで

販売数 一八四〇万本

(被告の平成三年度の「サケカップ」の生産出荷数量は四一四九キロリットルで、これは二三〇〇万本に換算され、その八〇パーセント相当の一八四〇万本は被告表示を使用した品と見られる。)

売上高 二六億八六四〇万円

d 平成四年一月一日から同年一二月三一日まで

販売数 二〇〇〇万本

(被告の平成四年度の「サケカップ」の生産出荷数量は四五一〇キロリットルで、これは二五〇〇万本に換算され、その人〇パーセント相当の二〇〇〇万本は被告表示を使用した品と見られる。)

売上高 二九億二〇〇〇万円

e 以上の被告表示を使用した被告商品の売上高の合計は一〇四億二四四〇万円となる。

(3) 右期間中の被告商品の売上高を基準とした使用料相当額は、右売上高合計の五パーセント相当の五億二一二二万円となる(これが被告の被告表示使用による原告の損害の額と推定される〔不正競争防止法新法五条二項〕)。

(三) 被告が不正競争行為により受けた利益の額(不正競争防止法五条一項による損害主張・予備的主張)

被告は、前記被告商品の販売により、少なくとも三億一九七四万円の利益(売上高の約三パーセント)を得ている(右利益の額が被告の被告表示使用による原告の損害の額と推定される)。

(四) よって、原告は、被告に対し、右損害のうち三億一九七四万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年一月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  被告の主張

1  被告表示の原告表示との非類似性、誤認混同のおそれの不存在

(一) 原告表示の構成

原告表示は、

(1) 青の地色に白抜きで、「SAKE」、「ONE」「CUP」「OZEKI」の英文字を四段に横書きしてなるものであり、

(2) その上段の「SAKE」の英文字は、二段目の大きく書された文字「One」の「n」の半字右から「e」にかけての右肩に僅かに間隔を開けて配するよう、太い(ボールド)、オールドローマン体の斜体(イタリック)で小さく横書きし、二段目の「One」の英文字は、第一文字「O」を大文字、第二、第三文字「ne」を小文字で、中太(メディアム)の各文字の適所にひび割れ状の切れ目を設けたオールドローマン体風の変形書体で文字間隔を接近させて、全体として大きく横書きし、三段目の「CUP」の英文字は、二段目の「One」の英文字と同書体で僅かに右寄せして全体として同大に横書きし、その末尾文字「P」のブラケットセリフの部分を「CUP」の英文字に付したアンダーラインのごとくに長く左右に延ばし、また、第二文字「U」をベースラインの上方に引き上げて配し、下段の「OZEKI」の英文字は、太い(ボールド)、オールドローマン体の斜体(イタリック)で僅かに小さく横書きしたものである。

(二) 被告表示の構成

(1) 被告現表示は、

〈1〉 青の地色に白抜きで、上段に白鶴の図柄(それは被告のシンボルマークである。)、その右に「白鶴」の文字(漢字)、中段に「SAKE」の英文字、下段に「CUP」の英文字と三段に横書きしてなるものであり、

〈2〉 その上段の「白鶴」の文字は、髭文字の楷書体で横書きし、中段の「SAKE」の英文字は、正体(ノーマル)の、太い(ボールド)、オールドローマン体で僅かに大きく横書きし、下段の「CUP」の英文字は、正体(ノーマル)の、太い(ボールド)、オールドローマン体で大きく横書きしたものである。

(2) 被告旧表示は、青の地色に白抜きで、上段に「SAKE」の英文字、中段に「CUP」の英文字、下段に白鶴の図柄(被告のシンボルマーク)、その右に「白鶴」の文字と三段に横書きしてなるものであり、白鶴の図柄と「白鶴」の文字が下段に表示されている(被告現表示では上段に表示されている)点以外は、表示されている字体、図柄、配置等は被告現表示と同じである。

(三) 被告表示の原告表示との非類似性

(1) 原告表示と被告表示と対比すると、次のとおりの相違がある。

〈1〉 原告表示は四段構成であるのに対して、被告表示は三段構成である。

〈2〉 原告表示は各段がすべて英文字で構成されているのに対して、被告表示は、白鶴のシンボルマークの図柄や「白鶴」の文字が用いられ、英文字は上、中段(被告旧表示)または中、下段(被告現表示)にのみ用いられている。

〈3〉 用いられている英文字が、原告表示では中太(メディアム)のオールドローマン体風の適所にひび割れ状の切れ目を設けた変形書体と、太い(ボールド)斜体のオールドローマン体を併用しているのに対して、被告表示では正体(ノーマル)の太い(ボールド)オールドローマン体で統一している。

〈4〉 特に、「CUP」の英文字は、原告表示では末尾文字「P」がアンダーラインのようなブラケットセリフで、また、第二文字「U」を引き上げて配して文字間隔を詰める等、極めて特異な形態のものであるのに対して、被告表示は各文字をごく単純に通常の文字間隔で真横に配したありふれたものである。

〈5〉 原告表示では、二段目の「One」と三段目の「CUP」の文字が同じ書体で同じ大きさでまとまりよく一体にデザインされていると看取されるのに対して、被告表示では、「SAKE」と「CUP」の文字が大きさを変えて併記されているにすぎない。

〈6〉 ラベル上の文字等の配置から生ずる全体印象として、原告表示は中央に密で左下が空いているから、一見して右下がりに斜めに文字を配した印象を与えるのに対して、被告表示(被告現表示)は、中央から上方にかけて左右が空き、下方におおきな文字を配しているから、一見して台形状に文字等を配した印象を与える。

(2) 原告表示中「ONE」「CUP」「OZEKI」と三段に横書きした英文字の部分は、ラベル中に大書されて、原告の製造販売するカップ入りの清酒に使用する商標として永く使用されてきたばかりでなく、原告がテレビやラジオ、新聞、雑誌等のマスメディアで「ワンカップオオゼキ」と広告宣伝に努めた結果、右ラベルに接した需要者、取引者は、右の親しまれた著名な「ONE」「CUP」「OZEKI」の英文字が強く印象に残り、これらの文字に相応して「ワンカップオオゼキ」と称呼されているから、原告表示の印象深い部分は、右三段に横書きした英文字の部分「ONE CUP OZEKI」であり、これが原告表示中の要部(自他商品識別標識として機能する部分)である。

(3) 他方、被告表示には、青の地色に白抜きで、翼を丸く広げて右向きに飛翔する鶴を描いたものと看取される図柄や、「白鶴」の文字、「SAKE」の英文字、「CUP」の英文字等が表示されているところ、これらの表示中、白鶴シンボルマークや「白鶴」の文字部分は、被告の製造販売にかかる各種清酒に共通して表示されるものであり、被告がマスメディアによる広告宣伝に努めた結果、被告の各種清酒に使用する表示として著名である。

また、「SAKE」の英文字や「CUP」の英文字は、単にその商品がカップ入りの酒、清酒であることを表示するにすぎないもので、消費者もこれに接してそのような商品であると認識するにすぎず、自他商品識別標識としての機能はないから(したがって、それら英文字部分は要部ということはできない。)、被告表示の印象深い部分は、白鶴の図柄や「白鶴」の文字の部分であり、これが被告表示中の要部である。

(4) 被告は、被告旧表示につき、平成元年二月二〇日商標登録出願をし、平成五年一月二九日商標登録(第二五〇一二八七号)を受けた。

この被告の登録は、原告の登録第一三九四四七〇号商標「One CUP」や、同登録第一三九四四七一号商標「ワンカップ」が先願先登録の商標として存在するにもかかわらず、これらの登録商標とは非類似のものとして登録されたのである。

他方、原告は、商公平五-七三八一九号商標「Sake CUP OZEKI-色彩限定」を出願中であるが、この商標は、原告の右登録商標「One CUP」や「ワンカップ」と連合商標とはされていない。これらの商標とは非類似のものとして原告は出願し、特許庁の出願公告を受けたのである。また、この商標は、右被告旧表示が先願先登録の商標であるにもかかわらず、この被告の商標とも非類似のものとして出願公告を受けている。

これらの点からすれば、被告旧表示の商標『SAKE CUP図柄「白鶴」の文字』と原告の商標「Sake One CUP OZEKI」は、「SAKECUP」の文字を共通するものの、この共通する部分は、自他商品識別力を欠くから、両商標の類否判断に際して除いて判断しなければならないし、また、被告旧表示の商標『SAKE CUP図柄 「白鶴」の文字」と原告の登録商標「One CUP」や「ワンカップ」は非類似であることが明らかである。

(5) 以上のとおりであるから、原告表示と被告表示とは、その外観上相紛れるおそれがないばかりでなく、その称呼、観念においても相紛れるおそれはないから、非類似のものである。

(四) そして、原告表示の「ONE CUP OZEKI」の英文字は、原告商品の表示として著名で、その文字に相応して原告商品は「ワンカップオオゼキ」と称呼されており、他方、被告表示の白鶴の図柄(被告のシンボルマーク)、「白鶴」の漢字の表示は被告商品の表示として著名で、その文字に相応して「バクツルサケカップ」の称呼をもって取引されており、消費者は、これらを目印として、原告の商品と被告の商品とを区別しているから、その間に出所混同のおそれはない。

原告は、原告表示は、ラベルの表示が青地に白抜きの英文字のみによるデザインのカップ酒といえば原告の「ワンカップ」といわれる位にまで定着し、周知、著名である旨主張する。

しかしながら、ラベルの地色やそのラベルに印刷する文字等の色彩は適宜選択されるにすぎないものであり、本来、商品の出所表示としての機能はない。不正競争防止法で表示として色彩が保護されるのは、それらの色彩が、特定人が特定の商品の商品について事実上独占して永年反復継続して使用すること等により、商品の出所表示の機能を奏するに至る(需要者、取引者にその商品を表示するものとして認識されるようになる)という格別の事情がある場合に限られるのである。

ところが、カップ入りの清酒で青地に白抜きで文字等を表示したラベルは、原告商品だけでなく、月桂冠や日本盛をはじめ、大小の多数の銘柄で用いられるありふれたものであるから、原告表示の青地に白抜きのラベルに出所表示の機能や自他商品識別の機能はない(そのように識別されている事実もない)。

2  原告の損害について

(一) 原告主張の損害額及び被告商品の販売数量、単価については否認する。

被告商品の販売数量等についての原告の主張は、甲六〇(株式会社日刊経済通信社発行の「酒類食品産業の生産・販売シェア」)記載の生産量を根拠にするものである。しかし、右記載の生産量は、本件の被告商品を含めたすべての被告の「酒カップもの」の生産量を表したものであるところ、その中には本件の被告商品以外の「酒カップもの」も含まれているのである。

(二) 被告による本件の被告商品の平成元年三月から平成四年一二月までの総販売数量は五四四八万二五九六本であり、その売上総額は七九億八六〇〇万六四八六円(酒税及び消費税を含む)である。

第三  判断

一  争点一(被告表示の原告表示との類似性・誤認混同のおそれの有無)について

1  証拠によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、清酒業界最大手の一社(資本金約七億二〇〇〇万円)である。

原告商品は、それが製造販売されるまで多かった清酒の消費スタイルの集飲(集まって飲む)タイプに合わせた商品形態からの差別化特性を目指し、清酒を軽量の広口瓶のカップに入れて、そのまま冷やで、いつでも、どこでも、一人でも、手軽に飲めるようにとの観点から考案された商品であり、そのネーミングについては国際感覚に優れたものとして「ワンカップ」に決定され、それにふさわしいデザインとして、青地に英文字のみを白抜きにレタリングした原告表示が定められた。そして、原告は、昭和三九年に原告商品を発売して以来、「ワンカップ大関」と称して、有名俳優歌手らを登用してテレビ広告やコマーシャルソングの普及等の宣伝広告活動を積極的に展開した。その結果、原告商品の売上げは、昭和四五年ころから飛躍的に伸び、昭和五四年ころには年間一億本を達成し、平成四年までの二九年間で約二二億本を超えるというロングセラー商品となり、原告における中核的な商品となるに至っており、被告において被告商品の製造販売を開始した平成元年当時には、既に原告表示は全国的に広く取引者、消費者の間で著名なものとなっていた。なお、平成元年度(被告商品の発売が開始された年)におけるカップ入り清酒(以下「カップもの」という。)についての原告の商品(本件の原告商品を含む)の市場占有率は約三九・五パーセントであり、平成四年度のそれは約四〇・八パーセントであった。

(甲二〇、二七、三七、四一、六〇、六四、六五)

(二) 他方、被告も、清酒業界の大手企業に属する会社(資本金四億九五〇〇万円)であり、昭和五四年に、青の基調色に白抜きの鶴の図柄(白鶴・被告表示のもの)をシンボルマーク、その基調色の青色を企業色に定め、以来被告が製造販売する商品すべてに青地に白抜きの鶴の図柄の表示(シンボルマーク)を使用してきた。なお、平成元年度におけるカップものの被告の商品(同年三月ころから製造販売が開始された本件の被告商品を含む)の市場占有率は約六・九パーセントであり、平成四年のそれは約八・六パーセントであった。(甲六〇、乙三八、四二の一・二、四三)

(三) 原告商品及び被告商品の販売形態

原告商品及び被告商品を含むカップもの清酒の一般消費者に対する販売は、〈1〉販売店(酒屋)における一個ずつ(後記スリーブ収納からばらしたもの)の店頭陳列、販売、〈2〉販売店(酒屋)における五個を一まとめにスリーブに収納したままの店頭陳列、販売、〈3〉各製造販売会社用の自動販売機による販売等の方法により行われている。(甲四の一、乙五、人の一ないし三、弁論の全趣旨)

(四) 原告表示の構成

(1) 青の地色に白抜きで、「SAKE」「ONE」「CUP」「OZEKI」の英文字を四段に横書きしてなるものであり、

(2) その上段の「SAKE」の英文字は、二段目の大きく書かれた文字「One」の「n」の半字右から「e」にかけての右肩に僅かに間隔を開けて配するよう、太い(ボールド)、オールドローマン体の斜体(イタリック)で小さく横書きし、二段目の「One」の英文字は、第一文字「O」を大文字、第二、第三文字「ne」を小文字で、中太(メディアム)の各文字の適所にひび割れ状の切れ目を設けたオールドローマン体風の変形書体で文字間隔を接近させて、全体として大きく横書きし、三段目の「CUP]の英文字は、二段目の「One」の英文字と同書体で僅かに右寄せして全体として同大に横書きし、その末尾文字「P」のブラケットセリフの部分を「CUP」の英文字に付したアンダーラインのごとくに長く左右に延ばし、また、第二文字「U」をベースラインの上方に引き上げて配し、下段の「OZEKI」の英文字は、太い(ボールド)、オールドローマン体の斜体(イタリック)で僅かに小さく横書きしてなるものである。

(前記争いのない事実、甲四の二、二八、乙一の一・二)

(五) 被告表示の構成

(1) 被告現表示

〈1〉 青の地色に白抜きで、上段に白鶴の図柄、その右に「白鶴」の文字、中段に「SAKE」の英文字、下段に「CUP」の英文字と三段に横書きしてなるものであり、

〈2〉 その上段の「白鶴」の文字は、髭文字の楷書体で横書きし、中段の「SAKE」の英文字は、正体(ノーマル)の、太い(ボールド)、オールドローマン体で僅かに大きく横書きし、下段の「CUP」の英文字は、正体(ノーマル)の、太い(ボールド)オールドローマン体で大きく横書きしてなるものである。

(2) 被告旧表示

青の地色に白抜きで、上段に「SAKE」の英文字、中段に「CUP」の英文字、下段に白鶴のシンボルマーク、その右に「白鶴」の文字と三段に横書きしてなるものであり、白鶴の図柄と「白鶴」の文字が下段に表示されている(被告現表示では上段に表示されている)点以外は、表示されている字体、図柄、配置等は被告現表示と同じである

(前記争いのない事実、甲四の三、二八、乙三の一・二)

2  原告表示と被告表示の類否

(一) 不正競争防止法二条一項一号は、商品主体の混同行為及び営業主体混同行為という実際の取引における不正競争行為を禁止するにあるから、商品等表示が同号にいう他人の商品等表示と類似のものか否かについては、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準に判断すべきものと解される(最高裁判所第二小法廷昭和五八年一〇月七日判決・民集三七巻八号一〇八二頁参照)。

そこで、右の観点から原告表示と被告表示の類否について検討する。

(二) 外観

原告表示は、青地に「SAKE」「One CUP」「OZEKI」と三段に表示されているのに対し、被告表示は、(被告旧表示ではラベルの最下段に、被告現表示ではラベルの最上段に)青地に鶴の図柄と「白鶴」の文字とが並べて表示され、その下(被告現表示)又は上(被告旧表示)に二段に「SAKE」「CUP」の表示がなされている。

両表示とも青地に白抜きの文字という点では共通しているが、そのような色調の表示自体は一般に見られる方法であって格別特徴的なものではないから、それだけでは特段の識別性、顕著性を有するものとは認められない。

他方、英文字の書体ないしデザインにおいては、前記のとおり原告表示と被告表示とでは異なるところがあるが、視覚的にそれらのすべてにつき異同の判別が容易であるとはいえない。

そして、原告表示の外的観上は、「SAKE One CUP」の「SAKE」の表示は、「One CUP」の表示よりはるかに小さな文字で、その表示位置もラベルの右上隅(「One」の「ne」の上)で余り目立たず、見る者の目に最も入りやすい表示部分は「One CUP」ないし「One CUP OZEKI」の部分といえる(右の「One CUP」部分は、一般に使用される形容詞(「One」)及び普通名詞(「One」「CUP」)の組み合わせであり、「One」「CUP」それ自体としては識別力のないものであるが、右組み合わせのものが原告商品の表示として周知性を獲得しているものと認められるから、それが原告表示の要部であるといえる)。

これに対し、被告現表示は、「CUP」の文字部分がラベルの約二分の一を占めるような大きさで、ラベルの中央下段に表示されているが、白鶴の図柄と「白鶴」の文字及び「SAKE」の表示も、ラベルの中央上段に、右「CUP」表示の大きさの約半分程度の大きさで表示され、全体的に見れば、白鶴の図柄と「白鶴」の文字及び「SAKE」の表示も見る者の目を十分に引く程度ものといえる。また、被告旧表示は、「CUP」の文字部分が、ラベルの中央中段にラベルの約二分の一を占めるような大きさで表示されており、最も見る者の目を引く部分であるが、その上段中央に「SAKE」の表示が「CUP」の表示の三分一程度の大きさで表示され、白鶴の図柄と「白鶴」の文字が、右「CUP」表示の下(ラベルの中央下段)に、「CUP」の表示の三分の一程度の大きさで表示されており、被告旧表示も、被告現表示とは鶴の図柄と「白鶴」の文字の表示位置が異なるだけであり、視覚的には概ね右被告現表示と同様に評価することができるものである。そして、前記のとおり「CUP」だけでは識別力はなく(「SAKE」も同様である。)、それ故に被告商品はケース等に「ハクツルサケカップ」あるいは「ハクツル SAKE CUP」と表示されて販売されているものと認められる(乙七の一、四四)。これらの点を考慮すれば、被告表示は、「白鶴 SAKE CUP」(被告現表示)あるいは「SAKE CUP 白鶴」(被告旧表示)が要部といえる。

そうすると、原告表示と被告表示とを全体的に観察すれば、外観上は、両表示は青地に白抜きの英文字の表示がなされている点並びに「CUP」及び「SAKE」の表示がなされている点において共通するといえるが、青地に白抜きの英文字表示方法自体は、清酒業界においてカップもののラベルに比較的多数使用されている方法であって(甲四の一、乙四)、特段の識別性はなく、他方、「CUP」、「SAKE」の表示も、字体が視覚的に類似しているところもあるが、異なるところもあるし(特に、「CUP」のアンダーライン様の表示の有無)、異なる商品主体を容易に推知させる表示(原告表示の「OZEKI」、被告表示の白鶴の図柄と「白鶴」の文字)も十分目を引く程度になされていること等からして、両表示の類似性は認め難いといわざるをえない。

(三) 称呼

原告表示の要部(「One CUP」ないし「One CUP OZEKI」)の称呼は「ワンカップ」ないし「ワンカップオーゼキ」であり、これに対し被告表示の要部(「白鶴 SAKE CUP」あるいは「SAKE CUP 白鶴」)の称呼は「ハクツルサケカップ」(被告現表示)あるいは「サケカップハクツル」(被告旧表示)であり、「カップ」の部分が共通しているが、「カップ」は「コップ」を意味する普通名詞として広く使用されているから、それ自体に特段の識別性があるとは認められない。そうすると、原告表示と被告表示とは称呼の点において類似するとはいえない。

(四) 観念

原告表示の「One CUP」は、「一つのカップ(コップ)」の意味に理解されるのに対し、被告表示の「白鶴 SAKE CUP」及び「SAKE CUP 白鶴」は、「白鶴の酒カップ(コップ)」の意味に理解されるものと認められる。

そして、「カップ(コップ)」自体には特段の識別性があるとはいえないから、右両表示は観念の点においても類似性は認め難い。

(五) 以上のところからすれば、離隔的観察によっても、被告表示の原告表示との類似性は認められないというべきである。

そして、右の点に、原告表示には原告を示す「OZEKI」の表示が、被告表示には被告を示すシンボルマークの白鶴の図柄と「白鶴」の文字の表示がなされ、それらはそれぞれ「One CUP」表示(原告表示)及び「CUP」表示(被告表示)の四分の一以下の大きさの表示ではあるが、見る者の目に十分つく位置と大きさで表示されており、清酒(カップもの)の一般の取引者又は嗜好者(需要者)がなす通常の購入方法によれば十分見分けがつく程度のものであるといえることや、前記認定の被告の営業規模・シンボルマークの使用期間、カップものの販売方法等を合わせ考えれば、原告表示の著名性を考慮しても、被告表示は原告表示と誤認混同のおそれがあるものとは認められないというべきである(スリーブに収納したままでの販売や自動販売機による販売の場合には、一層誤認混同のおそれはないといえる)。

(六) 原告は、被告表示が原告表示と類似し、混同のおそれがあることの立証として、甲六九ないし七四、七五の一ないし一五〇(原告が市場調査等を業とする株式会社エムエフ(甲六九)に依頼して行った原告商品と被告商品の類似度調査及びその結果)を提出する(以下、右調査ないしその結果を「エムエフ調査」という)。

右エムエフ調査は、調査対象者を「二〇~五九歳の男女個人で普段(月一回以上)飲酒する層」(アルコール飲料メーカー、卸売、小売及びマスコミ、広告、調査関係者は除外・以下、この調査対象者を「標本適格者」、除外者を「標本非適格者」という。)とし、調査会場として設定した東京二会場、大阪二会場の各会場付近を通行する者の中から無作為に抽出した各地区毎に一五〇名、合計三〇〇名(男女比は一対一で設定)を対象としてなされたものとされている(甲六九ないし七一)。

そして、右の調査結果(甲六九ないし七一)の中に、被告表示が原告表示に似ていると答えた者が多数あり、「ワンカップ大関」に「白鶴サケカップ」と間違えそうになった人が少なからずあったことを示す回答結果が示されている。

しかしながら、右のようなアンケート調査は、日本国内の飲酒者の意識調査を目的とするものであるから、飲酒者全員が調査対象となり、これから母集団を設定し、この母集団から人為的要素によらずに機械的に抽出した者を標本として実施される。この標本抽出法は、標本が母集団の縮図であり、母集団が調査対象の縮図であるから、標本から得られた結果から調査対象である日本国内の飲酒者の意識が推定される、という統計学上の原理に基づくものであり、標本抽出に人為的要素が入り込まない限り、その結果の信頼性は高いと考えられている。

ところが、エムエフ調査は、飲酒者全員から調査対象者として不適格な利害関係人を除いた者を調査対象とするから、母集団にはこのような不適格者があってはならないのに、この母集団として不適格者が混在する各会場付近の通行人を設定している。そして、機械的に抽出された真の標本に半数余りの回答拒否者があり、約三分の一の対象不適格者が存在するのに(甲七〇)、その回答拒否者は標本ではないと擬制して標本から除くという、調査方法の基本から外れた人為的操作が行われているから、エムエフ調査の結果の信頼性には大きな疑問がある。

のみならず、質問の中には、「この二種類のカップ酒はどの程度似ていると思われますか」との質問(質問2)の後に回答選択肢を示しているところ、右質問自体「どの程度似ていると思われますか」とあたかも似ていることを前提とするような文言(誘導的文言)になっており、客観的で公平な質問設定とは思われない。また、アンケート内容に用いられている「似ている」の用語の意味内容については何の定義も記載されていないところ、不正競争防止法二条一項一号にいう「類似」というのは商品等表示の出所の誤認混同のおそれがあることを意味するから、エムエフ調査のアンケートの「似ている」の回答が右出所の誤認混同に結びつく有意性のあるものかどうか判別し難いといわざるを得ない。

前記認定の原告表示と被告表示の非類似点に、右エムエフ調査の問題点を合わせ考えれば、右エムエフ調査の結果を考慮しても、被告表示が原告表示に「類似」し、出所の誤認混同を生じさせるおそれがあるとは認められないというべきである(甲一を考慮しても同様である)。

第四  結語

以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官小林秀和、同中島真一郎は、転補のため、署名捺印できない。 裁判長裁判官 竹中省吾)

(別紙)

目録(一)

1 【被告が現在使用しているラベル(被告ラベル)】

2 【上記ラベル中、予備的に使用差止を求める部分】

〈省略〉

(別紙)

目録(二)

【原告が現在使用しているラベル(原告ラベル)】

〈省略〉

(別紙)

目録(三)

(原告商品) (被告商品)

〈省略〉

(別紙)

目録(四)

【被告が平成3年9月ころまで使用していたラベル】

〈省略〉

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